おもちゃ工場2008・その3
クリスマス・イヴの夜はしだいに更けていきます。
どの係りの雪だるまも、みな、今年の分の作業は終えて、
あとはたくさんのプレゼントを積みこんだ橇を見送る
だけとなりました。
疲れているけれど、みんなの顔に、充実した時間を過ごした
あとの笑顔が浮かんでいる時間です。
が、しかし。
今年は外の空気と同じくらい、張りつめた空気が
部屋の中に流れています。
そして、誰もがみな、窓の外を見つめているのです。
【足】を作った雪だるまが心配していた通り、雲はちっとも
動こうとせず、昨日一日、空にへばりつき、夜が明けて
24日になっても、イヴの陽が暮れていき、あたりが暗く
なっても、重たい雲のベールで空は覆われたままなのです。
あと数時間のうちに、サンタクロースを乗せた橇は出発
しなければなりません。
それまでに、雲が動き、月の光の通る道を開けてくれなければ
いったい橇はどうやって進めばよいのでしょう‥
ほんの一筋の光でもいいのです。
それがあれば、橇は進む方向を見極められるのですから。
花火缶が来るのを、心待ちにしていた雪だるまも、
雲が動いてくれることを、懸命に祈っていました。
プレゼントを待っているすべてのこどもたちの元へ
どうか無事にプレゼントを届けることができますように。
目をつぶり、それだけを繰り返しました。
あ、あれを見てよ。
なになに、何が光っているんだい?
周りが急にざわめきたちました。
花火の缶詰を作った雪だるまも、目を開け、空をみました。
雲のベールの間を、縫うように駆けていく光は、
花火缶にちがいありません。
花火缶が駆けた後には、虫食いのような穴がぽこぽこと空き、
そこから雲は方々に散り始めていったのでした。
突然やってきた花火缶の存在に、雲は、
やれやれしかたがない、動くとしようじゃないか、と
言ってでもいるような緩慢な動きでしたけど。
その様子を見ていた雪だるまたちは、月の光が差し込んで
きたと同時に、大きな歓声をあげました。
おもちゃ工場全体が、しあわせな空気に包まれています。
いつのまにか、【足】を作った雪だるまが隣にきて、
花火缶の雪だるまの背中を、何度も嬉しそうに叩きながら
言いました。
「やっぱり戻ってきたね、しあわせの花火缶。」
「うん。戻ってきたね。 でも、すぐに行ってしまったけどね」
そうして二人は、にっこりと互いの笑顔を見つめたあと、
大きな声で手を振りました。
「おーい、今日はありがとう!」
「おーい、気をつけて行くんだぞ!」
ふたりの雪だるまは、花火缶の通り過ぎた後の夜空を
それからしばらくの間、眺めていました。
おしまい
どの係りの雪だるまも、みな、今年の分の作業は終えて、
あとはたくさんのプレゼントを積みこんだ橇を見送る
だけとなりました。
疲れているけれど、みんなの顔に、充実した時間を過ごした
あとの笑顔が浮かんでいる時間です。
が、しかし。
今年は外の空気と同じくらい、張りつめた空気が
部屋の中に流れています。
そして、誰もがみな、窓の外を見つめているのです。
【足】を作った雪だるまが心配していた通り、雲はちっとも
動こうとせず、昨日一日、空にへばりつき、夜が明けて
24日になっても、イヴの陽が暮れていき、あたりが暗く
なっても、重たい雲のベールで空は覆われたままなのです。
あと数時間のうちに、サンタクロースを乗せた橇は出発
しなければなりません。
それまでに、雲が動き、月の光の通る道を開けてくれなければ
いったい橇はどうやって進めばよいのでしょう‥
ほんの一筋の光でもいいのです。
それがあれば、橇は進む方向を見極められるのですから。
花火缶が来るのを、心待ちにしていた雪だるまも、
雲が動いてくれることを、懸命に祈っていました。
プレゼントを待っているすべてのこどもたちの元へ
どうか無事にプレゼントを届けることができますように。
目をつぶり、それだけを繰り返しました。
あ、あれを見てよ。
なになに、何が光っているんだい?
周りが急にざわめきたちました。
花火の缶詰を作った雪だるまも、目を開け、空をみました。
雲のベールの間を、縫うように駆けていく光は、
花火缶にちがいありません。
花火缶が駆けた後には、虫食いのような穴がぽこぽこと空き、
そこから雲は方々に散り始めていったのでした。
突然やってきた花火缶の存在に、雲は、
やれやれしかたがない、動くとしようじゃないか、と
言ってでもいるような緩慢な動きでしたけど。
その様子を見ていた雪だるまたちは、月の光が差し込んで
きたと同時に、大きな歓声をあげました。
おもちゃ工場全体が、しあわせな空気に包まれています。
いつのまにか、【足】を作った雪だるまが隣にきて、
花火缶の雪だるまの背中を、何度も嬉しそうに叩きながら
言いました。
「やっぱり戻ってきたね、しあわせの花火缶。」
「うん。戻ってきたね。 でも、すぐに行ってしまったけどね」
そうして二人は、にっこりと互いの笑顔を見つめたあと、
大きな声で手を振りました。
「おーい、今日はありがとう!」
「おーい、気をつけて行くんだぞ!」
ふたりの雪だるまは、花火缶の通り過ぎた後の夜空を
それからしばらくの間、眺めていました。
おしまい